現代ゲーム博覧館
※ややグロテスクな表現を含みます
2.高高高校第一弾野球部
この〔現代ゲーム博覧館〕は、作風があまりに突き抜けすぎて現代芸術のような様を呈しているゲーム、名付けて“現代ゲーム”を紹介する連載である。
今回、第2回で紹介する作品は、なんと約20年前の2005年8月にリリースされた作品である。
連載名に“現代”ゲームと冠しておきながら、2回目ですでにレトロの域に達してんじゃねーかと思われているかもしれないが、ここでの“現代”は時代を指すための言葉ではなく、その芸術性を指すための言葉なのだ。
14~16世紀イタリアで、ルネサンスという運動が起こった。
その運動のテーマは、簡単に言えば「文化の復興」。
それにより中世の時代に葬られていたギリシャ・ローマの文化が発掘・再評価され、それまでは衰退していた“芸術”という人類の叡智も再び蘇ったのだ。
つまり今のあらゆる現代芸術は、ルネサンスの“発掘・再評価”に源を発しているワケで。
この〔現代ゲーム博覧館〕でも、そんな“発掘・再評価”こそ重要なのではないか、ということである。温故知新温故知新。
失礼、話のマクラはこのくらいにしよう。
今回紹介するゲームの名は、
ちなみに、作者の名は
前回に引き続きふりーむで公開されているフリーゲームで、初公開日は2005/8/29、ジャンルはアドベンチャーだ。
ただし選択肢による分岐はほぼ無いので、ノベルゲームと形容した方がもしかしたら適切かもしれない。とにかく、“読む”タイプのゲーム。
アドベンチャー/ノベルゲームはそのシンプルなジャンル特性上、“やり尽くされたジャンル”だとも言われやすい。
だがしかし、この『高高高校野球部』は、この世のどんな文筆家でさえも到達できなかった文芸の彼岸に辿りついてしまった怪作である。
かつて“ルネサンス”には、「文芸復興」という訳語が当てられることも多かったとか。
さぁこれからこの目で、共に体感しようではないか。ジャンルに真旋風を巻き起こす、ADV復興のルネサンスを!
ゲームをインストールし起動すると、すぐにタイトル画面が表示された。
そして“高高高校”の読み方が
クリックすると、画面が進行。第一章「救世主石原」が開始した。
(ちなみに章選択のような見た目ではあるが別にそんなことはなく、「第二章」をクリックしても始まるのは必ず第一章であることも述べておこう)
本編が開始するやいなや、作者によるナレーションが入り、ストーリーの概要が説明される。
雲が鋭利すぎる
MSペイント感あふれるスチル(一枚絵)にのっけから圧倒されてしまいそうになるが、まずはあらすじを説明しよう。
作者によると、まず舞台は高校“高高高校”。
そして主人公は高高高校の生徒、
高高高校に野球部がないことにキレタ森岡は、なんと校長先生に直談判を決意。
物語は、校長室から始まることとなる。
そして、なんとこの『高高高校野球部』、ボイス付きである。
テキストだけでは、その趣が伝えきれないのが残念だ。
森岡勝くんの必死の頼みに対し、押し黙ってしまう校長。
さぁ、高高高校野球部、創設の可否は如何に……!?
良かった。
歯を見せてボイス&専用スチル付きで
また、スチルをよく見ると校長の靴らしき茶色が見えており、うつぶせにスライディングしながら顔だけをこちらに上げて快諾している、という絵面であることが分かる。
これだけバイタリティある校長なのだから、そりゃ高校の隣にホテルがあっても気にしないわな、という感じである。
今更だが、背景が一面の「TAKATAKAKOUKOU」であり、面白い
それに伴い、
どうやら地区大会が近いらしい。森岡勝と部員01と部員02と部員03と部員04と部員05と部員06と部員07と部員08と山岡監督による、高高高校野球部の練習活動がスタートした。
スチルを4コマ漫画にして展開を説明するという斬新な技法
しかし練習中、森岡勝の放った死球により、部員05は
(それに対し山岡監督は、
そのまま部員05の怪我は完治せずに、大会が近づいてしまう。このままだとショートが欠けたままになってしまうが……
と、その時!
ついに“救世主石原”登場!!
章のタイトルにもなっていた
主人公・森岡勝を除けば生徒の中で初のネームドキャラであり、この石原が森岡勝のライバル・相棒として切磋琢磨していくのであろう。
“救世主石原”が加入し、ついに地区大会の試合がスタートする。
なんだ、ちょっと演出が独特なだけで、普通の青春野球物語じゃないか……安心して、メッセージ送りを進める。
!?
……幻覚だろうか。落ち着いて、もう一度PCの画面を見てみよう。
!??!
!?!?
!??!
!?!?
先ほどまで私が「普通の青春野球物語」と呼んでいたゲーム『高高高校野球部』に登場するキャラクター“山岡監督”が見せた、初の全身像である。
今までアイコンでしかその姿を見せていなかった“山岡監督”は、そのあまりにも強烈なビジュアルを我々の前に晒すと共に、
一見、腕が四本あるようにも見えるが、それは誤解だと思われる。
山岡監督の“腕”はあくまで、頭上に交差して伸ばしている二本きりであろう。
さらなる“腕”に見えるのは、おそらくは身に付けている青いワンピースの“袖”であり、この監督はそれを振り回しているだけなのだ。ある袖は振れるからね。
そうだ、この山岡監督も、決して人知を越えた存在ではない。
腕が二本、足が二本という、よくいるタイプの人間なのだ。ちょっと足がねじれていたりちょっと肩が四角すぎたり
むしろ試合が始まった途端すぐに激励の言葉をかけてくれる、チーム想いの監督なのだ。
感謝こそすれ、恐怖する道理なんてどこにもない。そう気を取り直して、メッセージを次に進めると
前回と同じような弁明をまたやってしまうが、これは別に私が恣意的に流れをいじっているとかそういう訳ではない。
本当に、山岡監督は
……まぁ、監督は試合に直接的な介入をするわけではない。
高校野球の主役はあくまで生徒たち。森岡勝や“救世主石原”の活躍が、この物語の見せ場であろう。
特に、まだシルエットしか登場していない石原の行動は見物だ。守備の要であるショートの彼は、どんな活躍を見せてくれるのだろうか?
石原、いきなりデッド・ボールを食らって、吐血。“救世主”なのに。
グロい絵面が続いてしまっており、苦手な方には申し訳ない。
顔見せと同時に血を流す石原の姿を見て、いよいよ高高高校ワールドがヒートアップしていくのを感じざるを得ない。試合は進んでゆく。
グラサンのつるどうなってんだよ
高高高校のグログロナンセンスな世界は止まらない。
デッド・ボールを投げられたことにキレタ石原は、敵投手に正義の鉄拳(だが持っているのはバット)を食らわそうとする。その瞬間
ドカ ブシュ~
石原の
敵投手は
この蛮行は審判としても見過ごせなかったようで、救世主石原、退場となってしまう。
理由は完全に正当とはいえ、試合序盤でいきなり退場させられてしまった石原。この仕打ちに血の気の多い彼が放った一言は……!?
であった。
……ここまでの内容からでも、高高高校というゲームが間違いなく“現代ゲーム”に該当する作品であることがお分かりいただけたかと思う。
この後には、マムシが食べたくなった石原に森岡勝が
気になる方は、ぜひとも各自でご確認願いたい。
さてさて場面は転換し、先ほど怪我をして石原にショートの座を譲った部員05が、なぜかサメに追いかけられているシーンへと移行する。
ちなみにネタバレすると、この先からは野球の試合シーンは一切登場しない。
怪我を抱えているのにもかかわらず、
サメに追いつかれてしまったらしく、部員05は死亡。
第一章の時点で登場人物の7割方がなんらかの形で負傷または死亡しており、シナリオの鬱展開っぷりでは『パワプロクンポケット』シリーズをしのぐ勢いかもしれない。
続く第二章のタイトルは「破壊神石原」であり、すでにピッチャーの頭部を破壊した石原のさらなる躍進を予感させる題名に期待と不安が止まらない。
01-、
第二章は、森岡勝と部員01がキャッチボールをする和やかなシーンから始まる。
森岡勝の提案に対し、部員01も
しかし森岡勝、すぐに手を滑らせてしまい、01に対して死球を投げてしまう。反省がないぞ森岡勝。
このゲームでの野球ボールは、誰かを楽しませた回数より誰かを傷つけた回数の方が多い気がする
山岡監督は
しかし、その直後!
その効果線を緑で引くことあるか?
この激熱展開には、部員を省みないことでお馴染みの山岡監督もさすがに涙を流すか!?
しかし結局、山岡監督による
壊れてしまった05。それに対し森岡勝は
一騒動終わったところで、また新たな展開が。
21世紀最高のダダイスム文学こと『高高高校野球部』は、こちらに休む暇など与えてはくれないのだ。
どういうデザイン?
救世主石川に引き続き、こんどは
守備位置どっかという投げやりさ加減を引っさげて登場した星野に、一応はショートという守備位置が与えられていた石川はどう反応するのか。というかまだいるのか石川。
森岡勝や山岡監督をも軽々と超える石原の暴力衝動に、救世主星野もこれには
しかし星野、これで死んだわけではないようで、破壊神石原は
星野もそれに応じたようで、石原と星野、二人の救世主によるじゃんけん対決が始まった。
指ヤバ
星野も星野でチームの主力メンバーを殺して
改めて、この『高高高校』のダダっぷりを痛感させられた一幕である。
さて、実はもうこの『高高高校野球部』、ゲームエンドが近づいている。
ネタバレが死活問題なノベル(のべるのべる~)ゲームというジャンルの紹介で、クリアまで全てお見せしてしまうのは、いささか心苦しいのだが……
『高高高校野球部』は、プレイ時間が5分にも満たないタイトルであり、選択肢もないことから、今回はネタバレをお許しいただきたい。
この『高高高校野球部』の結末を自分の目で確かめたい、という方は、ぜひふりーむにて各自でごDLを。
では、ここからはノンストップで一気に、『高高高校野球部』のクライマックスをお見せしよう。
星野のテキスト
世界よ、刮目せよ。これが『高高高校野球部』だ。
まず、爆発したはずの石原がなぜか復活。
しかしその地球は、メッセージを送った瞬間、
そして、間髪入れずに
第二章「破壊神石原」の結末は、今までの登場キャラやら人類が積み重ねてきたストーリーテリングの技法やらをも全てひっくるめて破壊してしまう
以上が,、『高高高校第一弾野球部』という作品の全貌である。
いや違う、全貌ではない。
怪セリフが大量に存在する。
そして、『高高高校』特有の超現実テンポをなんとか伝えようとはしたものの、今回実際に『高高高校』を遊び直して、やはりこの感覚をそのまま再現するのは不可能だと思い直した。>
そして、作中何度も流れるボイスや効果音も、あの実音声にある味わいを文字で表現することはできない。
あの
……ということで、やはりこの『高高高校第一弾野球部』も、世に存在するあらゆるゲームと同じく、実際にプレイしないとその真価は分からない作品ということだ。
なのでよければぜひ、下記リンクから、
古いタイトルなので少し動作が不安定かもしれないが、Windows11でも問題なく起動はできた。
また今回、あえて“音楽”については触れなかったのだが……
プレイする際には、ぜひとも
きっと、このゲームに対する印象が540度変わってしまうはずだ。
今回の記事では、少しスクリーンショットに頼り過ぎてしまったきらいがある。
『高高高校』のセリフ・スチルがあまりにも粒ぞろいという理由はあるのだが、一応このサイト「あごわーるど」はテキストサイトを標榜しているため、これで良いのかという感じもする。
なんでオマケとして、ちょっとしたよもやま話を披露させていただこう。正直蛇足なので、読み飛ばしていただいても構わない。
今回冒頭に、“グロテスク表現を含みます”という断り書きを挿入した。
その時ふと、“グロテスク”について語源を調べてみたのだが、なんとどうやらこの言葉、美術用語が由来であるらしい。
なんでもこの言葉の起源は、ルネサンス期に人気を博した「グロテスク装飾」という表現様式にあるそう。
ある古代ローマの宮殿が、16世紀のイタリアにて地底から発見されると、その宮殿に施された奇妙な装飾は当時の芸術家たちの心をわしづかみ。
そして地底からよみがえったその装飾は、“洞窟”や“地下墓所”を意味する「Grotto」という言葉にちなんで「グロテスク装飾」と名付けられることになり、ルネサンスの芸術家たちはこぞって建築に取り入れたのだとか。
時は戻って21世紀。元は「奇妙な装飾」を指すための言葉だった“グロテスク”は、いつしかそれ自体で“奇妙”や“奇怪”といった意味を持つようになった。
そして日本ではさらに意味が転じ、流血表現などを指す言葉として“グロ”という言葉がよく用いられるようになった訳だが……
この『高高高校野球部』というゲーム、まさに本来の“グロテスク”という言葉にぴったりではないだろうか。
表現が“奇妙”で“奇怪”であることは全員が同意してくれると思うし、おまけに約20年間、『高高高校』はふりーむという地底で眠り続けていたのだから……
そんな「グロテスク装飾」のようなゲームを、私たち現代
時に地底で眠ることもいとわず、奇妙な美的表現を追求するものたち。そういった表現者たちの作品が、驚きと感嘆の言葉とともに再評価される……そんなルネサンスが、到来しても良いのではないかと、この〔現代ゲーム博覧館〕では夢見ている。
独自の表現を突き進む、“グロテスクスピリッツ”を持った創作者たちは、今なお存在するだろう。
そんな彼らに対して最後に、あの人物の言葉を借りてエールを送らせていただこう!
(血) 2025年7月25日
(スクリーンショットはすべて、『高高高校第一弾野球部』(2005)から引用いたしました)