現代ゲーム博覧館
1.田丸でGO!
この〔現代ゲーム博覧館〕は、既存のゲームの枠組みでは囚えきれない、あまりにも作風がアヴァンギャルドなゲーム、名付けて“現代ゲーム”を紹介する連載である。
さて、この連載で紹介する“現代ゲーム”は、そのほとんどがフリーゲームになる予定だ。
インターネットで発見しやすい、筆者の財力がそこまでないなどの理由もあるが、一番の要因は、収益が絡まない作品の方がクリエイター特有の“我”が色濃く出ていることが多いからだ。
この第1回で取り上げるゲームも例に漏れずフリーゲームであり、すさまじい作家性がゲーム一面に表現されたまさに怪作である。
前置きはここまでとしよう。〔現代ゲーム博覧館〕第1回で取り上げたいゲーム、その名は、『田丸でGO!』である。
『田丸でGO!』はメルフィスワールド氏が「アクションエディター4」で制作したシューティングゲームで、ふりーむ、フリーゲーム夢現で無料配布されている。
初公開日は2015/11/16と、昔ながらのフリーゲームとしては意外にもそこまで古い作品ではない。
ゲーム画面を見るに縦シューティングらしく、もちろん一次創作ではあるが、なんとなく『東方Project』シリーズを踏襲しているように感じさせられる。
さっそくゲームをインストール。解凍した"tamaru"フォルダ直下にあるtamaru.exeを起動して、いざメルフィスワールド氏の“ワールド”へ。
タイトル画面が目に飛びこんできた。
……
この見た者すべてを絶句させるタイトル画面についてあれこれコメントすることは、あらゆる視覚芸術を言語で批評するのと同様の野暮さがあるだろう。
しかし、この連載がゲーム批評の体を取っている以上、筆者にはこれにツッコむ義務がある。野暮も承知で、順を追って語りゆくとしよう。
まず注目したいのは、この2015年に作られたとは到底信じがたいUIデザインだ。
フラットデザインを通り越してスーパーフラットの域に達さんとしており、その上なぜかタイトル画面にナゾの教会(?)の写真を鎮座させている(この背景、なんとゲーム本編に一切登場しない)。
次にタイトル。「~天使伝説~」というサブタイトルが何の断りも(理も)なく付けられているのはスルーできるとしても、画面最上部のタイトルバーに「漆黒 -Dynamite-」という異常な文字列が表示されていることは流石に見逃せない。
何が漆黒なのか。何がDynamiteなのか。その説明は、もれなくゲーム本編で一切説明されることはない。
そしてこの衝撃のメニュー選択肢。「はじめから」「つづきから」「オプション」「終了」の4つが黄・緑・赤の3色で逆クリッピングマスクされてしまっており、ユーザービリティに喧嘩を売っている(4つの選択肢を3色で区切るなよ)。
ちなみにこの3色の並び順は、リトアニアの国旗と完全に一致していることにも言及しておこう。
もうすでにタイトル画面のツッコミだけで4パラグラフ使ってしまっており、もうそろそろゲーム本編に入らなければということで「はじめから」を選択。
この紫髪の少女が「田丸」なのだろうか?
どこ?
「はじめから」を押すと、ワールドマップ画面へ。ホコグラが(^ω^)であり、溢れ出すVIPクオリティを感じざるを得ない。
よく見るとスタート地点の画像にきまぐれアフターの校門が使用されており、このゲームもれっきとしたフリーゲームであることを思い出させてくれる。
一番近い看板に向かうと、「あ!ら!す!じ!」という表示が。決定ボタンを押すと、画面が遷移した。
そういうホラゲみたいな背景
シンプルなあらすじである。どうやら舞台は学校であり、主人公である恵美は高校生のようだ(フルネームは田丸 恵美だろうか)。学園ものシューティングとはまた新しい……
ちなみにこの画面、なんと横スクロールであり、ブロックを下から叩いて表示されるメッセージが上記画像だ。
今のところ行った操作が「はじめから→ワールドマップで面選択→メッセージブロックを叩く」であり、再序盤のゲーム体験がスーパーマリオワールドとほぼ一緒である。
しかし、もちろん『田丸でGO!』の真髄はSTG。ワールドマップから「出発」を選び、とりあえずゲーム本編をプレイしよう。
道中のザコ敵は、全員この花
そうして開始したゲームは、説明に偽りなしの縦シューティング。いわゆる「弾幕系」であり、ちゃんとザコ敵を倒さないと、1面からなかなか弾数は濃い。
操作はオーソドックスで、Zキーでショット、Xでボム。“低速移動”こそ実装されていないものの、やはり『東方』シリーズを踏襲しているようだ。
そう、この『田丸でGO!』、「アクションエディター4」という2Dアクション用の制作ツールで作られているにもかかわらず、STGとしてかなりしっかりした作りとなっているのだ。
低速移動がない、体力が20あるなど、「アクエディ製だなぁ」と思えるところはあるにせよ、個人製作のフリー弾幕ゲーとしては十二分に楽しめるクオリティ。
ワールドマップから、4種類の装備選択も可能だ。
なんだ、多少クセがあるだけで、普通の縦シューティングじゃないか……。
そう思って安心してプレイしていると、ザコ敵がいなくなり、ついにボス戦の気配が。
東方シリーズと同じく、美少女ボスと可憐な弾幕ごっこを繰り広げられるのだろうか。楽しみである。
!?
!??!!?!?
突如男の生首が現れ、因縁を付けられた。
「ピカピカの1回生 通りすがりの学生」とあるが、大学?の1回生なのはともかく、“ピカピカ”だとは思えない。
そう、この田丸でGO!、女子高生が主役の弾幕STGにもかかわらず、1面ボスが男子大学生の生首なのである。
しかもその生首は白目をひん剝いており、左手を上げながら笑顔のまま怒っている。
……皆さんにもう、お分かりいただけたと思う。このゲームを“現代ゲーム”と評さざるを得なかった理由が。
たしかにゲームそれ自体としてはしっかりした作りなのだが、“ゲームそれ自体”としての部分以外があまりに自由すぎるのだ。
恥&外聞をいっさい切り捨てて、ただ自身が“面白い”と思う演出に突っ走っており、まさしく「生の芸術」と呼べるシロモノになっている。
そして会話ダイアログも、例に盛れずハチャメチャである。
実際に読んでもらった方が早いと思うので、1面ボス「学生」と主人公「(田丸)恵美」の会話をここに引用しよう。
学生:
何だテメエ!!!必修に遅れちまうだろうが!!!!
恵美:
(笑)
学生:
笑ってんじゃNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEYO!
恵美:
(笑)
学生:
なんなんなんだよーーーーーーー(泣)
タイトル画面のイラストと同じ人が描いたの?
この「学生」との会話シーンのインパクトはすさまじく、初見プレイ時かなり爆笑してしまった。
ゲーム内の会話でここまで笑わせてもらったのも久しぶり、という位であり、パロディやお約束を用いた掛け合いに頼りがちなフリーゲーム市場にあって、間違いなくオリジナルの面白さを達成している。
思わずゲーム本編のことを忘れそうになってしまうが、あくまでこれは弾幕STG。
「なんなんなんだよーーーーーーー(泣)」のテキストを送れば、いよいよ1面ボスとの戦闘が開始だ。
ノリノリのギターがやたらとカッコ良い戦闘曲に合わせ、懸命に弾(いわゆる奇数弾と偶数弾)を放射状に撃ってくる学生であるが……
赤く光るは爆発.bmp
この “ピカピカの1回生”、かなりアッサリ倒せる。
1面ボスとは言え、体力以外は道中のザコ敵の方が強いのではと思ってしまうほど。ボムも体力も余裕を持って残し、次の面へ進もうとすると……
!?
あり得ないほどアナログのイラストに、あり得ないほどデジタルな「ステージクリア」の文字が。背景どこだよこれ。
恐らくこの手書きイラストで描かれている少女が主人公の「恵美」なのだろうけど、恐ろしいことにコレがゲーム本編で初めて登場した主人公のバストアップである(タイトル画面を除く)。
ちなみに、ここで流れるBGMもやたら明るくてシュールなので、よければゲーム本編を遊んで聴いてみてほしい。
もう『田丸でGO!』から目が離せない。2面へ進もう。
全角小アルファベットの容赦ない使用
2面「あすなろ第五中学校」(ちなみに1面は「通学路」だった。なんで中学校の通学路に大学生が……?)では、どうみても中学校ではない背景、そして妙にノリの良いテクノなBGMとともに進行していく。
そういえばこの『田丸でGO!』、サウンド面がなかなかに良いのだ。
効果音もBGMも、すべてフリー素材を使っているようだが、「いかにもフリーだな」と思ってしまうようなサウンドはほぼ皆無であり、こだわりを感じさせられる。
さて、そろそろボス戦だ。1面ボスが生首だっただけに、期待と不安をフィフティーフィフティーで抱えてしまうが……?
ホコグラは(^ω^)ではあるが
しかしそうして現れた2面ボスらしき人物は、黒髪の凛々しい美少女。
切り抜きがやや雑なことを除けば、極めてマトモそうな女子生徒だ(“何の罪も無い”って書かれてるし)。
よかった、ここから少女たちのうららかな弾幕STGが始まるのだろう……そう思ってテキスト送りをした矢先
生徒L、破顔。
まぁ急に“OG”がやって来て「つー訳で死ね」とか言われたらさもあらないのかもしれないが、にしたって左目と右目と口腔から涙を放射しながら「あああああああ!?!?」なんて程ではないだろう。
やはり彼女も、他ならぬメルフィスワールドワールドの一員だったのだ。
そして、ようやく主人公である田丸恵美の立ち絵が公開される。
実はこのゲーム、キャラデザはかなり秀逸であると思う。生徒Lも含めて、少女のデザインは皆カワイイし、十二分にbe able to 萌えである。
だから、恵美の髪の内側が透過できていない事なんかは、このさい無視しよう。
そして生徒Lと戦闘に。相手の完全なる正当防衛をかわしつつ、撃破に成功した。
生徒Lが爆発しとなったところで、3面に進もう。
回復アイテムの「アイス」が。アイコンにも使われており、伏線回収(?)
3面「近所の公園」。このあたりになると、弾幕もややきつくなる。
避けられないほどではないのだが、ゲーム慣れしてないと関門になってもおかしくない難易度のステージだ。
なんとかかわしつつ、ボス戦へ。
道中でこの難易度となると、ボス戦は苦戦を強いられるかもしれない。気を引き締めてのぞもう。そうして現れたボスの名と姿は
添加物 横道という緑髪のパイセンであった。ダメだ。さっき引き締まった気が一気に脱力してしまった。
皆さん、“添加物”という名字の人物が登場するフィクションが、この世に10年以上前から存在したのです。
ビデオゲームが文学などのハイカルチャーに風穴を空けるためのこれ以上なく鋭い矛であり、そんな作品が10年間ほとんど注目を受けなかったということは、人類が反省すべき歴史的大罪のTOP3には入るでしょう。
ちなみに他2つは第一次と第二次世界大戦です。
「添加物さんこんにちわ」で無限に抱腹絶倒可能
……失礼。添加物 横道というあまりにもなネーミングにあまりにも心をあまりにも奪われてしまったがために、本題から脱線してしまっていた。
恵美も平然と受け入れてるし、“添加物”も、おそらくこの世界では可笑しくない名字なのだろう。
クラスに一人は添加物家の息子さん娘さんがいるのかもしれないし、ひょっとしたら添加物内閣とかが過去に成立していた可能性だってある。
先ほどは後輩である生徒Lとの戦闘だったが、今回は先輩だ(“パイセン”が我々の想像する意味と同一の“パイセン”であったならば)。
恐らく実力者である可能性が高い。気を引き締め直して、メッセージ送りを進める。
テキスト送りを終えると、添加物 横道は、爆発四散した。
「えっやだよ」のテキストを送った瞬間に、戦闘も戦闘曲もなにもなく、ただ爆発と爆発音のみを残して、添加物 横道は夕焼けの空に倒れたのである。
もしかしたら懐疑的な読者は、私が恣意的に画像選びをしたのではないか、こんな展開は嘘で本当は普通にボス戦が始まるんじゃないか、生徒Lの涙とかも全部書き足してんじゃないか、とお疑いになるかもしれない。
その疑いはある意味で、もっともであろう。しかし、今私が言葉とスクリーンショットを尽くして伝えている『田丸でGO!』の姿は、伝えきれない情報こそあれそこに嘘はないと断言させてほしい。
とにかく、このゲームに3面ボスは存在しない。
もしかしたら『田丸でGO!』が海外で流行した場合には「beta版には3面ボスが存在するが、ボスを倒すとゲームがクラッシュして起動不可能になる」という内容のCreepypastaが作られるかもしれないが、とにかく添加物 横道は最期に「えっやだよ」と“バトり”を拒否し、3面「近所の公園」は終了となるのである。
世界よ、これが『田丸でGO!』だ
……さて、「現代ゲーム博覧会」で『田丸でGO!』を解説するのは、一旦ここでストップしよう。
ラスボスまでのすべてを丸裸にしてしまうのは、未来のプレイヤーの楽しみを奪ってしまいかねない。それに、「3面までが体験版」というのがこのジャンルのオヤクソクだし。
『田丸でGO!』は、ゲームである。
どんな作品だろうとそれがゲームである以上は、自分の手でコントローラーやキーボードを操作して“遊ぶ”のが、最善の楽しみ方であろうと思う。
あらゆる絵画や彫刻が、美術館に赴いてその目で味わうのが一番の鑑賞方法であるように。
記事化にあたって、3面までの範囲でも省略してしまったテキストは多い。
ぜひ皆さんには、『田丸でGO!』の世界を独力で味わってみることをオススメする!
おわりに少し、余談をさせてもらおう。この〔現代ゲーム博覧館〕で第1回目に取り上げたゲームが『田丸でGO!』である、その理由について話したい。
その理由は至極単純。『田丸でGO!』が、“現代ゲーム”の蒐集活動が始まるきっかけであったからに他ならない。
筆者はある時(ちょうどこのページを書いている半年前くらい)ふりーむ!にて見つけた『田丸でGO!』を、気まぐれにDiscordで画面共有してプレイしてみた。
――それがすべての始まりであった。
そのあまりにもニューウェーヴな演出に、サーバーのボイスチャット中は一同、爆笑と驚愕の渦に包まれた。
そうして『田丸でGO!』は、完全に内輪ブームとしての特権的な地位を獲得したのだ。
それに伴ってサーバー上では、「前衛的な作風の個人製作ゲームを発見しよう」というムーブメントが勃興。
そうして見つかったゲームたちには“現代ゲーム”という名称が付き、この連載にも用いられることになった。
これからも〔現代ゲーム博覧館〕では、今までのゲームの“型”からはみ出たような、“現代ゲーム”をどんどん紹介する予定だ(本当に、あと30個くらい取り上げさせてもらいたいゲームがあるんですよ)。
最後に、「初心を忘れずに」という気持ちを込めて、『田丸でGO!』の初プレイ時一番に生じた感情を表明しよう。そのために、このゲーム自身のセリフを引用して、この文章の〆とさせてもらいたい!
なんなんなんだよーー
ーーーーー
(泣)
(了) 2025年7月21日
(スクリーンショットはすべて、『田丸でGO!』(2015)から引用いたしました)