ケ・セランパサラン事変

この「50音ずつ面白い言葉を決める」か行の4段目。
“け”で一番面白い言葉として、最初にトップになった言葉は次のワードだった。

ケセラ・パサラ

たしかに、白い毛玉の姿を持つとされる未確認生物『ケセランパサラン』の表記揺れとして実在しそうなワードであり、実際『ケセラ・パサラ』提案者もケセラン・パサランを指す言葉だと思っていたようである。
よく使われる表記と微妙にズレているという珍奇さも「面白さ」として判断されたのだろう。このワードは票を集め、“け”のトップは一旦『ケセラ・パサラ』であるということになった。
しかし、調査が進んでいくにつれ、この『ケセラ・パセラ』が実在しない単語ではないのか?という疑いが勃発。実際、『ケセラ・パセラ』で検索しても、ある保護猫カフェの1記事しかヒットしないのである。


「“ケセラ”ちゃんと“パセラ”ちゃんという二つの猫を引き取りました」という記事
そこにケセランパサランの姿はない


我々は別の“け”で面白いワードを探さざるを得なくなった。なぜなら、言葉としてまったく流通していないものを「一番面白い」とするのは、企画の趣旨から逸れてしまうためである。
そこで次の“け”王として推薦されたのは、次のワードである。

ケツメイシ

バンドの方が連想されてしまうかもしれないが、もとは植物の名前。漢字で書くと『決明子』であり、“ケツ”が入っている、“ケツメ”の名に恥じず実際ケツと目に効く薬草である(便秘や眼精疲労の改善効果あり)ことなどが評価された。
そして議論に入り、存在しない言葉である『ケセラ・パサラ』派がなぜか多いなどのトラブルもあったものの、最終的には政権交代が起こり“け”の暫定一位は無事ケツメイシとなった。

しかし、『ケツメイシ』も、完全無欠な言葉というわけではない。先述の通り、どうしてもバンドの方が連想されることや、そもそもバンド「ケツメイシ」がいる時点でケツメイシが言葉として面白いのは十分知られている(ゆえに新規性が乏しい)のではないか、といったことが弱点として挙げられた。それゆえ、“け”は更新点のある(『ケツメイシ』より面白い言葉があるのでは?という)頭文字だとみなされていたのだ。
そこでさらなる候補として次のワードが提案された。ご覧いただこう。

ケ・セランパサラン

まさかの「ケセランパサラン」の表記揺れ、再びである。『ケセラ・パセラ』派の雪辱を晴らす……そんな思いもあり提案されたこのワード、少なくとも面白さは悪くないはずである。
“ケ・”って、謎だし。『ケツメイシ』に勝てるかはともかく、勝負の土俵には上がることが出来るはずだ。だって、『ケセラ・パサラ』と違い、この言葉は表記揺れとして実在するのだから。Wikipediaのスクリーンショットをご覧いただこう。


ほらね

実際に、使用例も限られてはいるが存在する。白い毛玉をあしらったガラス細工の題名になっていたり、リンクは伏せるが「呪術廻戦」のBL二次SSのタイトルに使われていたり。
マイナーな表記揺れではあるが、言葉として使われているとみなせるだろう。とりあえずその点はクリアしたので、『ケツメイシ』VS『ケ・セランパサラン』、どっちが面白いか?の議論が始まった。当時行われた華麗なる論戦をここに抜粋しよう。

ケツメイシ派 — 2025/02/18 17:58

ケツメイシがじっさいケツと目に効く薬草なのは面白いじゃん

ケ・セランパサラン派 — 2025/02/18 17:58

ケ・セランパサランの意味不明な中黒も面白い
誰だってケセランパサランという文字列を見たとき「ケセラン・パサラン」と区切ると思うから
言語習得以前の赤子もそう感じると思うよ

ケツメイシ派 — 2025/02/18 17:59

でも、ケツメイシはケツが含まれてるから小学生ウケはいいよ????

ケ・セランパサラン派 — 2025/02/18 18:00

小2まで

ケツメイシ派 — 2025/02/18 18:00

赤子より小学生のほうがいいでしょ

ケ・セランパサラン派 — 2025/02/18 18:00

ケ・セランパサランは小3に流行る
ちょうどこういう謎単語の面白さが分かる時期だから

ケツメイシ派 — 2025/02/18 18:01

でも友達多いのはケツメイシの方でしょ
ケ・セランパサランを面白いと思ってるやつは大抵孤立する

このように高度なディスカッションが行われていたわけだが、突然、ケツメイシ派からこのような提言がなされる。

「ケ・セランパサランも、本当にある言葉か分からない」

この提言により、議題は『ケ・セランパサラン』が真実の、「実際に存在する」言葉であるのか、という点にシフトしていく。

ケツメイシ派 — 2025/02/18 18:26

Wikiだって嘘吐くぞ

ケ・セランパサラン派 — 2025/02/18 18:27

でも少なくとも明確に「ケセランパサランの表記揺れとしてケ・セランパサランがある」という事実を述べている文献があるじゃん
ケセラ・パセラにはそれが無いもん!

ケツメイシ派 — 2025/02/18 18:28

じゃあ「ケセランパサランにはケセラ・パセラという表記揺れが存在します」という文献を作ったらケセラ・パセラも通るか? 本当の呼び名が不明瞭な言葉って、常に「これって実在する呼び方なのか?」という不安が脳裏をよぎってならないから

そして、そこまで言うのならやってやろうと、ケ・セランパサラン派は調査に移ることとなった。まず第一にケ・派が調べたのは、Wikipediaのログである。ケ・セランパサランという表記が、どのような敬意でWikiに追加されたのかを知るのが先決だ。
その結果判明したのは、恐ろしい、「キズを治すパワー」が“キズパワー”と略されていることより恐ろしい、衝撃的な事実であった。

ケ・セランパサラン派 — 2025/02/18 18:31

今ケサランパサランのwikipediaチェックしてたんだけど
本当に捏造の可能性出てきた

ケ・セランパサラン派 — 2025/02/18 18:32

https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=ケサランパサラン&oldid=60298562
この版まではケサランパサラン、ケセランパセランの表記しか無いんだけど
この版から急に「ケセランパセラン」表記が消えてケ・セランパサランに乗っ取られてるんだよ

https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=ケサランパサラン&oldid=60669100
そして、この版でようやく今の四つの表記になるんだけど
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=ケサランパサラン&oldid=102328388

ケ・セランパサラン派 — 2025/02/18 18:35

この(上の)版の「ケ・セランパサラン」編集が本当に意図不明だし
ソースも無いから
まじでwikipedia歴史修正案件かもしれん

……そう、Wikipediaの「ケ・セランパサラン」表記は、ある一人の編集者によって突然、本当に何の一言もなく突然追加されたものだったのだ。
具体的には2016年8月5日 (金) 10:00の版から追加されており、編集時のコメントや、ノートでの会話などもなく、ただ元からそこに存在したかのように、『ケ・セランパサラン』が追加されていた(しかも「ケセランパセラン」表記を押しのけるように)。
また、先述した「ケ・セランパサランの使用例」も、その全てが2016年8月5日以降に記述されたものであり、それ以前にケ・セランパサランという語を使った人間は(少なくともインターネットで探し出せる範囲上では)皆無であった。

『ケ・セランパサラン』表記を追加した編集者の意図は、なんだったのであろうか。ただの悪戯か、はたまた編集者はその表記が本当にあると思っていたのか(もしかしたら、本当に彼の周りではそう呼んでいたのかもしれない)。
実際、最初に『ケセラ・パセラ』を提案した人物は、この企画以外でも過去にケセラ・パセラという言葉を使っていたのである。

ただ、一つまだここに特筆すべき事項がある。Wikipediaには、編集した人物が誰なのか分かるようになっており、Wikipediaにログインしていない場合でも、IPアドレス(接続機器に割り当てられる識別番号)がばっちり記録されるのだ。
私たちは、『ケ・セランパサラン』を追加した編集者IPアドレスをクリックしてみた。すると、ある事実が判明したのだ。『ケ・セランパサラン』の編集者は

「ケセランパサラン」の記事以外の編集を一切行っていない

のである。
我々はもしかしたら、とんでもないパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。





2025年5月初頭現在でもWikipediaに『ケ・セランパサラン』という言葉はバッチリ残ってしまっており(サーバーに誰もウィキペディアンがいないので)、少なくとも「ケ・セランパサランという表記揺れが本当にあるのかどうか」という本格的な調査は行われていない状態である(そのため、調べれば出典足りえる使用例がちゃんとある可能性も捨てきれない)
この事件はこの企画内で、いや、この企画外であっても重要な、ある教訓を示してくれたと言えるだろう。それは、「Wikipediaに書いてあることだけを鵜呑みにしてはいけない」ということである。
と言いつつ、「ソースはWikipedia」をやってしまっていることはまだまだあるので、この「50音ずつ面白い言葉を決める」で語られているマメ知識はあまり信用しない方が良いだろう。

なんにせよ、最終的には

ケアウホウ

が全てをかっさらっていったので、どうやってもケ・セランパサランの立つ瀬は最初から無かったということである。これにてメ・デタシデタシ。

(スクリーンショット等、画像の出典元は全て画像リンク先にございます)



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